
今回の記事内容のまとめ
- これまでの美容室の時間単価は10分で1000円計算なのでカット5000円は普通
- 1000円カットの代表格たるQBハウスの値段が時間単価の基準でいいのでは?
- お客様も自身が求める価値に応じたサロンに行くほうが満足度高いですよ
こんにちは。
西宮・夙川にある「マンツーマンでお客様の髪のお悩みに真剣にお応えする」がコンセプトの
小さなプライベートサロン【Ricos】の佐久間 将でございます。
先月ぐらいに美容室の倒産件数が過去最多というニュース記事が上がってました。
この話題はテレビのニュースでも取り上げられてましたね。
いや、何年か前にも同じタイトルの記事見た記憶もありますけども。
過去最多を更新した数年前よりもっとたくさんの美容室が潰れているということですね。
で…その記事でもニュースでも、いわゆる格安店が大人気みたいな話を出すわけです。
紹介されてたのは今や全国各地にあるヘアーサロンIWASAKIというチェーン。
意外とお客様に聞いてみると皆様まだ知らない人が多いんですよ。
調べてみたらこのへんだと…広田神社の参道あたりにあるらしいですけども。
全部で何店舗ですかね、数百店は確実にあると思うのですが…本当に大きなチェーンですよ。
そこを有名にしてるのはカット980円(平日サービスタイム690円)という、
美容室としては破格の安さで技術を提供しているからですね。
この何でも値上げのご時世にあって大変お財布にやさしいということで、
とても良心的みたいな扱いで紹介されていましたけれども…
そうなると皆様はきっと考えると思うんです。
「よくある美容室ってだいたいカット5000円くらいのところ多かったよな」って。
多少の前後はあると思うのですが…だいたいそれくらいのイメージだろうと。
「980円とか690円でカットできるならさ、そもそも5000円って高すぎるんじゃないの?」
そう考える人が出てきてもおかしくありません。
よくあるカット5000円の美容室は果たして高いのか、安いのか。
今回はそのあたりの話を考えていこうと思います。
本日も拙文をご高覧賜りましてありがとうございます。
それではどうぞ。
1000円カットはなぜ1000円カットなのか

今や駅ナカ、商店街、スーパーなどのテナントなどあちこちで見るカット専門店。
いわゆる『1000円カット』と呼ばれる理美容室ですね。
シャンプーなども一切省き、カットしたら掃除機のようなものでガーッと毛を吸って終わり。
ここまででおおよそ10分が目安…というのがいわゆる1000円のカット専門店の業態。
カットして1000円ってだいぶお安いですよね。これだけでも破格と言っていいかと。
1000円カットが代名詞と言ってもいい業界最大手かつ先駆者のQBハウスが有名ですね。
ヘビーユーザーのやす子が最近QBアンバサダーになったとか何とからしいですけども。
さて。
あまりにも前提条件すぎて皆様は今さら疑問に思われることもなかったかもしれませんが、
そもそも【1000円カットはなぜ1000円カットなのか】という本項の見出し。
気にされる方もあんまりいらっしゃらないかもしれません。
「10分ならそんなもんか」「キリの良い数字だしな」程度に考えていらっしゃると思います。
これ、実は美容業界の時間単価に基いているんだろうと思うんです。
言い切ってもいいけど確証が持てないので「だろう」という言い方をしましたが…たぶんそれです。
美容室における時間単価というのは『10分で1000円』と言われています。
今も美容師をしているうちの父親が昔からそう言っていた記憶があります。自分が子供の頃です。
その頃から美容室の時間単価は10分1000円程度だったのでしょう。
この数字をそのメニューに一般的にかかる時間分で掛け算をしてみましょうか。
- カット:約50分=5000円
- カラーカット:約90~120分=9000~12000円
- パーマ:約90~120分=9000~12000円
- 縮毛矯正:約150~180分=15000~18000円
どうでしょうか。
なかなかよくあるお値段になってませんか?
10分1000円単位でメニューの金額が決まっているのがわかっていただけると思います。
だからカット5000円っていうのは至って普通の料金の店なのです。
高くも安くもなかったんですね。これまでは。
この時間単価が我々には元からベースとしてあったわけですから、
そこから「じゃあシャンプーもブローも省いてカットだけを10分でやるなら1000円でいいね」って、
それで生まれたのが10分1000円カットなわけです。たぶん。
だからカット1000円って破格の安値って最初はみんな思ったでしょうけども、
我々の時間単価に基けばべらぼうに安いどころか、むしろ安くもないし一般店と一緒なんですよ。
細かいオーダーに応えられる余裕と…あとシャンプーやスタイリングがないってだけで、
カット約1時間5000円の美容室も、10分1000円カットの店も時間単価では同じなのです。
時間単価で考える適正料金

というわけで1000円カット専門店とカット5000円のサロンはどちらも高くも安くもなく、
双方が一般的な時間単価に基いて値決めされていることがわかっていただけたかと思います。
…ですがここでひとつとても大事な話があります。
さっき1000円カットの代名詞である(って自分が勝手に言った)QBハウス。
いま1000円じゃないんですよね。
そうなんです。QBハウスはもう1000円カットじゃないんですよ。
現在のQBハウスの価格は(現行では1350円だけど)2025年2月から1400円。
日本も30年の長きにわたって続いたデフレがついに終わり、今や物価が上昇するインフレの時代。
いやそこは景気よくなってねえんだからスタグフレーションだろとか言う人は一旦さておき、
とにもかくにも物価は下がるより上がることが当たり前の時代になったわけです。
30年下がり続けた米価も今年は上昇に転じましたね。
農家からしたらコメなんて作っても儲からず農業機械や肥料等の値上がりで苦しかったでしょうから、
そういう諸々をきちんと売価に上乗せできるというのはとても良いことなのです。
路線バスの運賃もためらうことなく値上がりしています。
自分が住んでる尼崎市内の阪神バスも確か去年230円に値上がりしたはずなのですが、
この前乗ったら240円になってました。この2年くらいで20円の値上げ。
それで運転手の待遇が良くなって路線網が維持できるならいいじゃないですか。
『安いは正義』はもう終わったんですよ。
これまでの安さは消費者以外の『誰か』が我慢したり泣き寝入りすることで成り立ってたんです。
その『誰か』は往々にして生産者か販売者、サービスを提供する従事者ですね。
原材料や経費の値上がり分を我慢することなくきちんと消費者に負担してもらうだけでなく、
生産者や従事者にきちんとした分け前や、あるいはスタッフ教育など質の向上を用意するために、
その原資を売価に上乗せするのが今や新しい当たり前になったのです。
QBハウスもその例に漏れませんでした。
1000円が数年前に1200円になり、1350円を経て1400円に。小刻みに上げて来ますね。
眠る人材を再教育施設(たぶんロジスカットのことかな)で掘り起こすために投資…
それが値上げの名目ですから。従業員教育とスタッフの価値向上。
やっぱりね、きちんとした価値を提供しようと思ったらきちんと料金に反映されるもんですよ。
物価が上昇しているときに我々の業界だけこれまで通り据え置きってのもおかしいですからね。
ということはですよ…?
10分1000円だったQBハウスの料金がこの業界の時間単価の基準と見てもいいんじゃないのかなと。
とりあえず名付けて『QB基準理論』とでも言っておきましょうか。
その基準価格となるQBハウスの料金が2025年2月から1400円とさっき書きました。
この基準価格にさっきと同様に美容室のメニューに一般的にかかる時間分で掛け算をしてみます。
- カット:約50分=7000円
- カラーカット:約90~120分=12600~16800円
- パーマ:約90~120分=12600~16800円
- 縮毛矯正:約150~180分=21000~25200円
どうでしょうか。
「えっ、高くない??」って思われましたか?
でもこれがQB基準理論に基く『新しい適正価格』なんだと思います。
この基準で考えたら本来一般店のカット料金は6500~7000円ぐらいが適正であるべきなんですよ。
カラーカットも15000円ぐらいしたって別に何も高すぎることなんてないんですよね。
世の中には安い店とそこで働く従業員を露骨に下に見るようなしょうもない底辺がいますけど、
そういう奴らって1000円カットとかのスタッフを「たかが1000円風情が」みたいに言うわけで。
トータルの金額だけしか見てなくて何もわかってないですからね。そういう奴らは。
今やQB以外の1000円カットも1200円だったり1300円だったりしてるわけで、
そう考えたらカット6000円未満でやってる一般店のほうが時間単価では…やっすい仕事してるんです。
最初に書いたカット5000円なんて今の時代では高すぎるどころか安すぎるんですよ。

えっ、まだ5000円でカットしてんの!?

お前らカット4000円とか安売りしすぎでしょw
今後はこうなっていかないといけませんし、そうなるべきなのです。
そんな簡単には変わりませんが、お客様側も美容師側もこうアップデートされないといけないのです。
おりしも日本の政界では与野党ともに経済対策の要として最低賃金の引き上げを主張しています。
これ書いてる今ちょうど衆院解散して総選挙が云々と言ってますからね。
引き上げ目標が時給1500円ですか。
最低賃金が上がったら当然物価も上がらないとおかしいわけですよ。
時給1500円はあれとしても、当面の物価上昇率は2%台と見込まれているわけですから、
我々美容業界が合わせるべき時間単価の基準はQBハウスの料金に則るのが自然だと思います。
世間の流れをきちんと見て適切に緩やかに値上げしてますから。
そこで仮にIWASAKIの平日サービスタイムに基準を合わせたら美容師が苦しくなるだけですからね。
そんなデフレ時代はもう終わったのです。文字通り過ぎ去った過去なのです。
だから2024年現在カット5500円の当店も高いどころか安い店なんですよ。
特にうちみたいなスタッフ1人の個人店だと指名料もいただいてませんからね。
それでカット5500円は正直なところ相当に安いのではないかという認識です。
なのではっきりと申し上げますが、今後当店のカット料金は段階的に最低でも7000円に向かいます。
値上げにはお客様に提供する価値の向上が含まれているべきですし、それはその通りと思うのですが、
普通に世間の物価が上がる今、この業界もさっきの基準額までは『自然増』で許容されていいのです。
値上げを事前に宣言するのは日本での商売においてはマイナスだろうことは承知の上ですが、
レギュラーサロンと呼ばれる一般美容室は皆こうあるべきなんですよ。うちに限らず。
…なんか近代建築の五原則を発表したル・コルビュジエみたいなこと言ってるなって感覚です、今。
俺がそうするっていうんじゃなくて20世紀の建築家なら誰もがそれに従うべき…みたいな。
ル・コルビュジエって相当に偏屈な奴だったんでしょうね。
たぶん自分も相当に変だったり偏屈だったりすると思います。それでいいんです。
何かを為したり新しい時代を作るのはだいたいぶっ飛んだ変人なので。
自分もそうありたいと思っています。
まあね、一般店のカット料金7000円にすべきなんて何もぶっ飛んだこと言えてませんけどね。
お店がお客様に提供する『価値』

前項にてレギュラーサロンのカット料金は6500~7000円であるべき的なことを書きました。
そうは言っても値決めは事業者の専権事項ですからね。
こんな雑魚サロンが何かほざいたところで世間の美容室様は従わなくて当然です。もちろん。
ただ、それはそれとして今後はおそらく以下のように分類されていくだろうなと思っています。
カット料金を美容室の分類の基準としたらこうなるかな…と。
書いてない金額の店はそれぞれの中間…みたいな感じでお考えくださいませ。
- 高級店:10000円以上
- 一般店:7000円前後
- プチプラサロン:4000円前後
- 短時間カット専門店:1000~1500円
特定のカテゴリをディスったりするつもりは全くないんです。
○○は××だからダメだとか言うつもりは一切ございません。
どのカテゴリにもそれぞれ良し悪しというか棲み分けがあるんですよね。
荒っぽいざっくりな言い方をしますと、さっきの分類はサロン側がお客様に提供する価値の重心が…
- 上(高い側)に行くほど【品質】になり
- 下(安い側)に行くほど【時間】になる
たぶんこうなるだろうと思っています。
これは何も低価格がへたくそだとか、そういうことでは全くないわけです。
低価格サロンでもきっちりといい仕事される美容師はたくさんいますし、
逆に高級店は丁寧なぶん仕事が遅いかと言えば必ずしもそうではないんです。
大事なのは先程ちらっと書きましたけど【価値の重心】がどっち側なのか…なんですよ。
価値の重心はお店の『売り』と言い換えてもいいかもしれません。そのほうが伝わりやすいか。
カット専門店と低価格サロンは技術サービスを手頃な値段で売っているのはもちろんですが、
それだけではなく【時間】もまたお店の売りなのです。
『早く終われる』『頻繁に通いやすい』という【時間】を価値にしてお客様に提供している。
忙しい人たちや、マメに通いたいと思っている人たちには大変ありがたいものです。
簡単に言ってしまえば低価格サロンはタイパ重視型なんですよ。
今の時代、特にZ世代と呼ばれる若年層はタイパをとても重視してますからね。
ついこの前ゲーテで西野亮廣が「今の時代は『時短』にお金が払われている」と書いてましたが、
今はやるべきことも誘惑も多くて忙しい時代です。だからこそ時間には大きな価値があるんですね。
その一方で、その売りとしている価値を提供するにあたって省かれるものもあります。
主に何が省かれるかというと『時間のかかる作業』です。当然ですね。
- お客様のご希望や悩みをきちんと伺う細やかなカウンセリング
- 毛量の多い髪をしっかりとすいて減らす量感調整
- カット終了後に「もう少し短く」みたいな切り直しのオーダー
それらを省くことでスピーディーな仕事をして時間という価値を提供しているんですね。
カット専門店は切り始め以前にカウンセリングから仕上げまで原則10分以内なので、
なおさら上記のような作業は省いて【時間】という本質的価値を高めているわけです。
それが低価格サロンにおける値段分の仕事なのです。
それでこそ低価格サロンにおいてタイパとコスパの良さが両立するんですよ。
タイパの良さを売りにした店でパフォーマンスの完璧さを追求したら時間かかって本末転倒ですから。
「いやいや、美容師の本質的価値はサービスと施術のクオリティでしょ?何そこ省いてんの」
そう思われた方おられますか?
その考え方は間違ってません。それも正しいと思います。
ですがそこを本質的な価値として求めるなら低価格サロンではなく一般店か高級店ですよ。
お客様の細かなお悩みやご希望に向き合ったり、居心地よくゆったりくつろげるサービスを受けたり…
それはきちんとこちらもお時間を用意して、きちんと対価を得てお客様に提供するものです。
一般店と高級店の本質的価値は高いクオリティとホスピタリティです。良い品質とおもてなし。
それをサービスとして受けるには低価格サロンに比べたらお客様には高いコストが発生します。
ですが、そのコストをお客様が支払っても「行ってよかった」「また行きたい」と思っていただける…
料金そのものは高めでもコスパいいねと思っていただける技術とサービスを提供する。
これが我々一般店以上のサロンの売りだと思っています。
なので細やかで時間のかかる作業やサービスを低価格の店に求めるのは間違っていますし、
そういうクオリティを提供する店に低価格を求めるのもどっちも間違ってるんですよ。
飲食店に置き換えたらよくわかるはずです。
- 早い安いうまいが売りの牛丼屋でネパール人店員の礼儀がなってないなんてクレームつけますか?
- 町の定食屋の焼き魚定食にどうして関サバを使ってないのかなんてクレーム入れますか?
- シェフの仕事が見える鉄板焼の店でシャトーブリアン食って高いって理由で低評価つけますか?
- ドレスコードあるレストランに庶民でも入れる値段と規則にしろって求めますか?
美容室だろうが飲食店だろうが全部同じことなんですよ。
価格の差というのは主に提供される【商品の品質】と【サービス】の差です。
自分の望むサービスを適切に提供してくれるカテゴリの店を選びましょう。
1年ぶりのカットを写真見せてばっさりショートにするのに1000円カット行くとか、
黒髪からのハイトーンカラーをプチプラサロンのカラーカット4000円でやろうとするとか、
次の予定あって時間ないのにおもてなし重視のサロンに飛び込みで行こうとするとか、
そういうね…間違った使い方はしてはいけないんですよ。そんなん無茶振りですから。
無茶振りをゴリ押しされると我々もいい気はしないどころかぶっちゃけ迷惑ですし、
お客様側も求めていたものが叶わずクレームを入れたくなるでしょうし。
お互いにとっていいこと何もないんですよ。
何を重視するのかを考えて、求める品質とサービスに合致したお店を選んだ方がみんな幸せです。
ちなみに当店は今でもおおよそ一般店の料金ですが…高いと感じる方もおられるのは事実です。
マンツーマン対応のプライベートサロンという点も含め、こちらの提供する技術とサービスには、
価格以上の価値を提供しているという自信を持って営業しております。
高いと思われてもいいのです。
その値段以上の価値があるとお客様に伝わって喜んでいただけているのであれば。

年齢も違うお客様がどちらも似たような時期に似たような内容の口コミをくださいました。
「値段は高く見えるけど、長持ちするからコスパがいい」
こうおっしゃっていただけるのは本当にうれしく思っています。
そうなることを目指して担当させていただいておりますので。ありがたいですよ。
率直に言って自分の仕事は速くありません。同業者から見たら遅いほうだと思います。
ですが長持ちする仕事をすることで来店回数そのものを減らせるという『時短』も提供している、
そういった意味ではコスパだけでなくタイパもいい美容室なのかなと。
自分ではそう思っております。
共感していただけた方にはご来店を心よりお待ち申し上げます。